コールセンターでは、地震や台風・ゲリラ豪雨などの水害、寒波による大雪など、日本が抱えるさまざまな災害リスクを考慮して、業務継続性を確保するためのBCP対策が重要となっています。加えて非常時には、コールセンターが顧客対応の重要な窓口となることを踏まえて、具体的な施策を打ち出す必要があります。
しかし、具体的な手順や内容を知る機会が少なく、拠点の損害や従業員の出勤状況によって、コールセンターの正常に運営できなくなるリスクも高まっているのが実情です。
そこで本記事では、コールセンターに必要なBCP対策の手順とポイント、具体的な方法を詳しく解説します。また、人手不足でも導入できるボイスボットにも触れますので、ぜひ最後までご一読ください。
コールセンターにおけるBCP対策とは
コールセンターにおけるBCP対策としては、下記の例が挙げられます。
- 運営拠点を複数の都市に分散
- 拠点閉鎖の判断基準や指揮系統の決定
- 停電・断水時の備えとして備蓄品を用意
- 従業員の安全確保やケア・サポート体制
- コールセンター業務のリモート化
大規模災害はもちろんのこと、2020年より世界的な広がりを見せている、新型コロナウイルスの影響によって、通常通りの業務が難しくなる場面はこれまでにもありました。
しかし緊急時であっても、コールセンターは顧客と接する重要な窓口です。むしろ、緊急時であるほど重要な存在となるケースもあるでしょう。そのため、有事の際も安定して利用できるコールセンター運営には、BCP対策が不可欠といえます。
<関連記事>
カスタマーサポートを自動化する方法とは?サービスやツールを紹介
日本のコールセンターは特にBCP対策が重要
日本のコールセンターでは業務を継続できるよう、バックアップシステムの整備や、災害時における代替拠点の確保などのBCP対策が必要です。内閣府によると、位置や地形に加えて地質や気象などの自然的な条件がそろっていることで地震や台風などの自然災害が多いとされているためです。
項目 | 割合 |
---|---|
マグニチュード6以上の地震回数 | 20.8% |
活火山数 | 7.0% |
死者数 | 0.4% |
災害被害額 | 18.3% |
例えば、停電や断水によって、コールセンターが稼働できないだけでなく、拠点として利用している建物自体が損壊するケースも考えられます。稼働できたとしても、従業員の安否確認や交通機関の乱れによって発生する「出勤の遅れ」なども考慮する必要があるでしょう。
日本のコールセンターでBCP対策を徹底することで、顧客に安心してサービスを提供できるだけでなく、企業の信頼性まで高められます。
<関連記事>
コールセンターにおけるBCP対策の具体例
コールセンターにおけるBCP対策の具体例として、以下の3つが挙げられます。
- ノンボイス化
- セルフサービス化
- 在宅化
ノンボイス化
ノンボイス化では、顧客からの問い合わせやサポート依頼に対応できる以下の体制を整えます。
- メール
- チャット
- SMS
- SNS
災害などで電話回線が不通になった場合でも、顧客とのコミュニケーションを維持できます。また、コールセンターのスタッフがリモートワークを行う場合にも、これらの対応方法を利用することで、業務継続性を確保できるのも利点です。
顧客もこれらの対応方法に慣れ親しんでいるため、災害時にもスムーズなコミュニケーションができるでしょう。
セルフサービス化
人が行っていたチャネル対応にAIや自動音声応答システムを活用し、無人で運用できる体制を整えるセルフサービス化もBCP対策を強化できる例です。
例えば、自動音声応答システムを導入することで、大量の問い合わせにも迅速かつ正確に対応できます。また、AIを活用したチャットボットの導入で、24時間体制でのサポートを提供できるでしょう。
在宅化
在宅化とは、オペレーターがセンターに出社することなく、自宅で顧客対応できる体制をつくることです。自宅に必要な機器を設置し、社内ネットワークへのアクセス制限やデータの暗号化、VPN接続の利用などを実施します。
自宅での業務によるストレスや運動不足を防ぐため、適切な休憩時間や運動の機会を与えることが必要です。在宅化により、BCP対策を強化しながら、オペレーターのワークライフバランスも改善できると期待されています。
コールセンターにおけるBCP対策の流れ
コールセンターにおけるBCP対策の流れを、以下にわけて解説します。
- 対策すべき対象を見極める
- 運用の体制を決定する
- 勤務環境を整える
- システムやAIを導入する
対策すべき対象を見極める
コールセンターにおいて、災害や感染症が発生した場合に何をすべきなのかを検討します。
現状の運営方法を把握し、どのような状況下でも対応できる体制が必要です。その上で、不足している対策を検討し、備蓄品や設備などを整えることが求められます。
また、従業員の健康管理や、在宅勤務の導入なども検討することで、万が一の場合でもスムーズに業務を継続できるようにすることが大切です。さらに、顧客とのコミュニケーション手段の確保や、情報共有の仕組みの整備なども必要でしょう。
運用の体制を決定する
非常時のコンタクトセンター運用では、運用体制やルールを決定することが非常に重要です。
例えば、従業員のリモートワークや自宅待機が考えられますし、アウトソーシングや、パートタイマーの採用なども検討しておきます。コールセンターに出勤する場合には、マスク着用や手洗い・消毒の徹底など、感染症対策を徹底しましょう。
また、コールセンターの設備やシステムについても、バックアップ体制やサーバーの冗長化や、通信回線の増強などを整える必要があります。
勤務環境を整える
勤務環境を整えることは、BCP対策や感染症などのリスク対策に効果的です。
在宅勤務の場合は、オンラインツールを活用し、コミュニケーションを密に行います。適切なワークスペースを確保し、適度な運動やストレッチを行うことも大切です。
一方で、オフィス勤務の場合は、マスクの着用や手洗い、換気などの感染症対策を徹底することが必要です。また、オフィス内のデスクや机、ドアノブなどの共有スペースの定期的な消毒も欠かせません。
勤務環境を整えることで、社員の健康と安全を守り、業務の継続性を確保できます。
システムやAIを導入する
BPC対策として、非常時でもコールセンターの運営を継続するために、システムやAIを導入することも検討できます。
具体的には、自動応答システムや音声認識システムを導入し、オペレーターが対応できない場合でも顧客の問い合わせに対応するなどが挙げられます。また、AIを活用して、問い合わせ内容に応じた回答を提供することも可能です。
クラウド型のコールセンターシステムを導入することで、オペレーターが在宅勤務することも可能になり、非常時でも運営を継続できます。
コールセンターのBCP対策で押さえるべき5つのポイント
コールセンターのBCP対策で押さえるべき5つのポイントは、以下のとおりです。
- 拠点の状況を確認
- 基本ルールの決定
- 従業員のケア・サポート
- リモートワーク体制の構築
- セキュリティの向上
拠点の状況を確認
コールセンターのBCPを実施する上で必要な情報を収集するためには、拠点の状況を正確に把握することが必要不可欠です。
- 拠点の場所
- 拠点の規模
- 拠点の設備
などを詳細に把握しておく必要があります。これらの情報を収集することで、BCPを策定する上で必要な情報を正確に把握できます。
また、拠点を分散させておくことも重要です。複数の拠点を設置することで、災害やトラブルが発生した場合でも、業務を継続できます。
基本ルールの決定
基本ルールとは、BCPの発動において守るべきルールのことです。決定しておくことで、実施をスムーズにする目的があります。これには、中小企業庁が公開している「5.緊急時における BCP の発動」が参考になります。
① | 初動対応 |
② | 顧客への連絡と中核事業の継続方針の立案 |
③ | 顧客・協力会社、従業員・事業資源、財務対策と地域貢献活動の実施 |
④ | 応急、復旧、復興対策の進行 |
参考:中小企業庁(5.緊急時における BCP の発動)
それぞれの項目に応じて、企業ごとに守るべきルールを決めておきます。加えて、緊急時でも確認できる体制まで整えられると安心です。
従業員のケア・サポート
従業員が安心して働けるよう、ケアやサポート体制も、おろそかにできません。 コールセンターに欠かせないオペレーターが、業務遂行に不安を感じ休職・退職に追い込まれないよう、体制を整えておきましょう。
災害発生時に無理な出勤を強要すると、従業員を危険にさらし、不安を感じさせてしまいます。従業員の安全を守ることも、企業として重要な取り組みです。
また、従業員自身には問題が発生しなくても、家族が被災したり感染症にかかったりして、出勤できなくなることもあります。幼稚園や保育園、学校の休止によって、子どもを見なければならなくなった子育て世代が欠勤することもあるでしょう。そのような場合のサポート体制も、考えておきたいところです。
加えて、出勤人数が少なくなると、従業員1人あたりの業務負担が増えます。そのような状況でも効率よく仕事に取り組めるよう、業務の効率化を図るシステムを取り入れるのも、対策として有効です。
リモートワーク体制の構築
コールセンターの業務をリモート化するのも、BCP対策として重要です。通信回線のクラウド化を進めることで、拠点に集まらなくてもコールセンター業務が可能になります。 大規模災害の発生によって、各種交通手段が停止すると従業員は出勤できなくなるでしょう。
しかし、出勤しなくても業務ができる体制を構築できていれば、普段通りに稼働できます。 感染症拡大によるパンデミックが懸念される場合も、コールセンター業務をリモート化することで、感染リスクを軽減できます。
ネットワークのクラウド化、リモートワークに必要な機器の貸与など、あらかじめ導入しておかなければならないシステムや設備がありますが、問題が起きてからでは対応できません。 BCP対策を考えるなら、必要なシステム・設備を計画的に導入しておきましょう。
セキュリティの向上
BCPを実施する上で、企業が直面するリスクは多岐にわたり、ウイルス感染や不正アクセス、個人情報等の漏えい、災害などによる機器障害が挙げられます。これらのリスクから企業の機密情報や顧客データを守るために、セキュリティ対策を徹底する必要があります。
具体的には、社内のネットワーク環境やシステムの脆弱性を定期的にチェックし、最新のセキュリティ対策を導入することが必要です。また、社員の教育や意識向上も重要であり、パスワードの強化や不審なメールの開封を避けるなど、セキュリティに関する基本的な知識を身につけることが求められます。
なお、個人におけるデータやシステムへのアクセスや保管にも目を向けて対策しておくとさらに安心です。
コールセンターのBCP対策ならボイスボット導入がおすすめ
コールセンターのBCP対策には、ボイスボットの導入がおすすめです。従来のIVRシステムにある問題点を克服し、オペレーターの業務を助ける存在になるでしょう。
ボイスボットとは
ボイスボットはAIによる、音声認識や自然言語処理を使った自動応答システム。AIが顧客の声を認識し、設定したシナリオに沿って問い合わせへの回答を行います。
現在普及しているIVRシステムは、音声ガイダンスを聞いてから顧客が該当番号を操作するものですが、ボイスボットは問い合わせ内容を話しかければ、AIが内容を識別してくれます。
音声ガイダンスの途中離脱や、判断に迷って顧客が不適切な操作をするのを防ぎ、問い合わせ内容に合った取り次ぎをしてくれるのがメリットです。
設定されたシナリオで解決できないものや、個別に有人対応が必要な問い合わせのみ、オペレーターに取り次ぐので業務の負担を減らせます。電話の一次受付として活用すれば、コールセンターの業務効率化に繋がるでしょう。
<関連記事>
ボイスボットとは?IVRとの違いやメリット・デメリット、活用事例などを紹介
コールセンターにボイスボットを導入するメリット
コールセンターにボイスボットを導入するメリットは次の3つです。
- 業務負担が軽くなり人材も定着する
- 人材が不足しても対応できる
- オペレーターへ取次機能があり遠隔対応可能
業務負荷が軽くなり人材も定着する
ボイスボットによって業務負荷が軽減できれば、離職率を下げられます。 対応すべき内容が多岐にわたると、オペレーター負担は重くなります。ボイスボットが問い合わせ内容をヒアリングした上で取り次げば、対応業務を簡略化できるでしょう。
クレームの減少にも繋がり、業務上のストレスを減らす効果も期待できます。効率よく働ける職場環境になれば、人材が定着するでしょう。
人材が不足しても対応できる
ボイスボットを導入すると、着信時の一次対応がAIによって処理されます。簡単な問い合わせならば、ボイスボットでも解決できるので、個別対応が必要な問い合わせ件数を減らせます。
1拠点が閉鎖されたり、出勤できるオペレーター数が少なくなったりしても、コールセンターの業務を効率よく行うことができるでしょう。
オペレーターへの取次機能があり遠隔対応可能
ボイスボットは問い合わせ内容を識別し、回答や転送処理を行います。そのため、コールセンターにオペレーターを集合させなくても、必要に応じて電話転送し、遠隔業務が可能です。
また、コールセンターより、営業担当や修理受付への取次が適切であると判断されれば、必要に応じて転送先を振り分けてくれます。
まとめ
日本のコールセンターでは、地震や台風などの自然災害が多いこと、災害や感染症の影響で通常通りの業務が難しくなることを考慮し、業務継続性を確保するためのBCP対策が重要となっています。具体的には、運営拠点の分散、備蓄品の整備、従業員の安全確保、リモート化などが挙げられるでしょう。
また、停電や建物被害を考慮し、バックアップシステムと代替拠点の確保、ノンボイス化、セルフサービス化、在宅化も検討します。
コールセンターのBCP対策としては、ボイスボットの導入もおすすめです。オペレーターの業務負担を軽減し、人数が不足しても対応可能な体制づくりに役立ちます。問い合わせ内容を判別し、適切な相手への取り次ぎもできるので、コールセンターのリモート運営にも便利な存在です。
関連資料