業務効率化や競争力の確保のためには、DXが必要不可欠な時代に入り、現在では多くの企業が手をつけはじめています。しかし、大規模な取り組みであることから推進がうまくいかず、進捗が芳しくないケースもあるでしょう。
そこで本記事では、DXの足がかりとなる「社内DX」の基本やポイントを解説します。具体例としてコールセンターのDX推進に役立つITツールにも触れていますので、ぜひ最後までご一読ください。
社内DXとは
社内DXとは、社内においてデジタル技術を活用し、業務プロセスの最適化や生産性向上、さらには新たなビジネスモデルの創出を目指す取り組みのことです。
具体的には、業務自動化やデータ分析、クラウドサービスの活用などが挙げられます。社内の小さなところからDXを導入することにより、業務の効率化や品質向上が図られ、社員の生産性が向上することで、企業の競争力強化に繋がると期待されています。
そもそもDXとは
「DX」とはデジタル技術の恩恵により、人々の暮らしや活動を豊かにしようという概念です。
DXとは「Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)」の略称ですが、英語圏では「Trans」を「X」と略すため、表記は「DX」です。
DXは2004年にスウェーデンで提唱されて以来、ビジネス分野にも波及しています。既存のビジネスモデルを抜本的に変革し、企業のあり方をも変えてゆくものです。
日本でも2018年に経済産業省が「DX推進ガイドライン」を発表したこともあり、国内企業の社内DXを後押しする動きがあります。
日本におけるDXの現状
日本におけるDXの現状は、まだまだ改善の余地があると評価されています。実際、2022年に行われた調査では半数以上の企業が自社のDX推進に不足しているとの評価があります。
その中でも最も大きな課題は、従業員のDXリテラシー不足です。従業員がDXに対して理解を深め、積極的に取り組むことが、企業のDX推進において非常に重要なポイントです。
また、コストがかかること、対応できる人材がいないなども課題として挙げられています。DXが進まずに取り残された企業が多いままでは今後重大な経済損失が発生するとして、経済産業省は警鐘を鳴らしています。
参考:半数以上が会社のDX推進の取り組みは不足と評価。課題は「従業員のリテラシー不足」が最多。 | 月刊総務オンライン
社内DXが必要な4つの理由
経済産業省も推進を呼びかけている日本企業の社内DXですが、なぜ必要とされているのでしょうか。それには大きく4つの理由が存在します。
- DXの足がかり
- 働き方改革のきっかけ
- 「2025年の崖」問題への対策
- BCP対策
DXの足がかり
社内DXは、企業がDXに取り組む足がかりとなります。小さな社内プロセスのデジタル化により、従業員は業務の効率化や作業負荷の軽減を実感し、デジタル技術に慣れ親しめます。
また、デジタル化によるデータの可視化や分析により、企業は新たなビジネスモデルの創出につながる情報を得られたり、企業の競争力を向上したりすることにも貢献します。
中長期的な取り組みをはじめるきっかけとなるため、小さく進められる社内DXは全体的なDXの足がかりとして役立つでしょう。
働き方改革のきっかけ
日本では少子高齢化が進んでいるため、労働人口の減少は避けられません。そこで、業務効率化や生産性向上といった働き方改革が必要とされており、社内DXが注目されています。
また、社内DXには技術革新だけでなく、組織のあり方も変えてゆくことも含まれます。
時短・フレックス・リモート勤務といった働き方を認めることで就業条件の面で仕事に就けなかった人の採用に繋がれば、労働力を確保できるでしょう。
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「2025年の崖」問題への対策
社内DXを進めるべき理由には「2025年の崖」と表現される課題があります。これは2025年ごろに、多くの企業で採用されているデジタル機器やシステムのメーカーサポートが終了する見通しであるためです。
サポートが切れたシステムでは、データの互換性やセキュリティ面で問題があるでしょう。同時に、既存システムを支えているIT人材が定年退職を迎える時期は2025年ごろとなります。
運用技術の継承ができずシステムがブラックボックス化すると、障害発生時に業務への影響は避けられません。これらの問題から、2025年以降に最大で12兆円もの経済損失が毎年発生すると試算されており、対策すべき事柄とされています。
BCP対策
非常事態に陥っても業務を遂行できるよう、企業にはBCP対策が求められています。
社内DXの推進はBCP対策にも役立つ事柄であり、企業体制の強化として取り組むべき事案です。
非常時には限られた人員や各種障害の発生した状況で業務を遂行しなければなりません。
遠隔地からのサポートが可能なシステムの導入、重要データをクラウド化して損失を防ぐといった社内DXがなされていれば大いに役立つでしょう。
社内DX推進に必要な3つのポイント
社内DXの推進を失敗させないために押さえておきたいポイントがあります。これから社内DXに取り組む場合や進捗が芳しくない場合は次の3つのポイントを確認しましょう。
- 経営層がDXの目的を明確にする
- IT人材を確保・育成する
- 一貫性を持ったシステムを構築する
経営層がDXの目的を明確にする
会社の経営層がDX推進によって得られる効果や目的を明確に把握していなければ社内DXは進みません。
社内DXはシステムの刷新や業務フローの改革だけでなく、会社の組織体制やあり方の変化も含みます。
- なぜシステム・フローを変更するのか
- 計画はどのようなステップで進むのか
- 最終的にどのような形になるのか
こうした事柄を経営層が明確にしなければ、従業員の理解や協力を得られません。まずは経営層がDXの目的を明確にし、理解を深めましょう。
IT人材を確保・育成する
社内DXを進めるには、IT人材を確保・育成しておかなければなりません。IT人材が不足したまま、現在のシステム担当者が定年を迎えてしまうと、後継者を育てられず、今後の運用に支障をきたすでしょう。
外注利用もできますが、業務を熟知しない外部業者に任せきりにした結果、実務と乖離したシステムが構築されてしまう恐れもあります。
高額なコストを払って、非実用的なシステムを使うとなれば、反対する従業員が出てもおかしくありません。IT人材の確保と育成は、社内DXの推進において大切な事柄であると、認識しておきましょう。
一貫性を持ったシステムを構築する
社内DXとしてシステムを刷新する場合、会社業務を一貫してフォローできるものを構築するべきです。
例えば顧客情報を受注する営業部、請求処理する経理部、アフター対応する技術部がそれぞれ異なるシステムで管理しているという事例もあるでしょう。顧客情報に変更があると、各部署が運用しているシステムで更新作業をすることになります。
こうした重複業務を削減し社内のワークフローを考えた一貫性のあるシステムを使えれば、部署間の相互連携も容易になり、業務効率がアップするでしょう。
社内DX推進でまず取り組むべき3つのアクション
社内DXにおいて重要なポイントを押さえ、推進に向けて取り組むべき事柄は何があるのでしょうか。取り組むべき3つのアクションを解説します。
- 予算を確保する
- 権限と環境を用意する
- 小さく社内DXを進める
予算を確保する
社内DX推進には、多くのコストがかかるため予算を用意します。ツールやシステムの初期コストやランニングコストはもちろん、優秀な人材の確保費用、外部委託費用、教育のための研修費用など、多岐にわたるためです。
社内DXの必要性を認識している場合、これらのコストは必要な投資として扱われます。しかし、現状で
運営に問題のないものは変更しないといった判断によってコストを投下しないと、社内DXの推進を遅らせる要因となるでしょう。
予算を確保し、社内DX推進に必要なコストを惜しまず投資することが、企業の成長につながります。
権限と環境を用意する
社内DXにおける推進事業部が円滑に業務を進めるためには、必要な権限が付与されていることが不可欠です。スムーズな導入のために適任のリーダーを配置し、必要に応じてデータへアクセスできるよう権限を付与しておきましょう。
また、環境において半端なデジタル化は状況を悪化させることがあるため、ペーパーレス化やオンライン会議などを導入する場合には、全ての従業員に励行させます。これにより、社内DXの推進とスムーズな業務進行が可能となるでしょう。
小さく社内DXを進める
小さく社内DXを進めることも大切です。具体的には、以下の3つからはじめましょう。
- 業務環境のデジタル・IT化
- 業務プロセスのデジタル・IT化
- 顧客接点のデジタル・IT化
業務環境のデジタル・IT化
社内DXには業務の改善・効率化が不可欠であり、デジタル化やIT化できる環境を整備するべきでしょう。
- 書類をアナログからデジタルに移行
- データの保管場所を社内サーバーからクラウドサーバーに移管
- リモートワークに必要な機材を支給
これらの環境整備を進めるには費用がかかるだけでなく、導入時には従業員全体の理解も必要です。環境整備によるメリットを周知し、協力を得ながら実行しましょう。
業務プロセスのデジタル・IT化
業務環境を整えるとともに、プロセスのデジタル化も積極的に取り組みたい事柄です。
- 承認・決裁業務を電子化
- 社印を電子化して押印業務を省略
- 書類管理をデジタル技術で自動化
承認・決裁や会社印をデジタル化すれば、決裁や押印のために出社する必要がなくなります。リモートワークを促進し、業務の手間を省くといったメリットがあるでしょう。
書類の整理・発行もデジタル技術で自動化できれば、業務効率化につながります。保管期限が過ぎた書類を整理し、見積書・請求書の発行に割いていたリソースを他の業務に回せるでしょう。
顧客接点のデジタル・IT化
顧客との接し方にもデジタル技術を取り入れたいところです。
- 顧客情報をデータ化して一元管理
- ロボットやAIによる一次対応の無人化
顧客情報をデータとして集約・分析できれば、サービス向上やマーケティングにも役立つでしょう。各部署が個別に保管している情報を収集し更新の手間を一本化すれば、重複業務もなくなります。
ロボットやAIを顧客対応にも取り入れ、有人対応が必要なもののみ振り分けて取り次げれば、少人数でも効率よく業務が実行できます。
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社内DXの進め方
社内DXの進め方は、以下の6ステップが基本です。
- 中長期で目的や戦略を設定する
- DXのロードマップを作成する
- DX推進の体制を整備する
- 必要な外部のツールを導入する
- 業務のデジタル化を実行する
- データを蓄積し、PDCAを実行する
小さくはじめる場合においても、DXの進め方と大きく差はありません。中長期で目的や戦略を設定するDXのロードマップを作成し、DX推進の体制を整備します。
また、外部のツールを導入することで、業務のデジタル化を実行し、データを蓄積しながらPDCAを実行することで、DXの効果を最大化しましょう。
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社内DX推進に役立つツールの紹介
社内DXを進めるうえでは、既存システムを刷新するとともに、新たなツール導入も必要となるでしょう。ここからは、社内DX推進に役立つツールを紹介します。
カスタマーサポートツール
顧客対応は有人対応でなければ解決できないこともあり、顧客満足度にも影響します。カスタマーサポートを効率化させるツールとして以下のものが挙げられます。
- 顧客情報・対応事例を集約するデータベース
- 顧客への回答支援となるFAQやチャットボット
- 異なるチャネルに寄せられた問い合わせを一括管理するツール
- 電話の一次対応を自動化するIVRやボイスボット
特に電話の一次対応を自動化できれば、人員が少ない状況下でも効率よく業務を進められるでしょう。
AIを活用したボイスボットは、電話対応の効率化にも役立つ技術です。問い合せ内容の集約・分析にも活用できるツールとして注目されています。
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コラボレーションツール
社内DXの推進には、コラボレーションツールを活用した情報共有も欠かせません。ツールの一例としては、以下のものが挙げられます。
- 社員の動態を把握するタスク管理やスケジュール管理ツール
- 新規顧客への営業状況を共有する業務日報ツール
- 顧客情報を一元管理するデータベース
- 他部署の業務と連動したグループウェア
社員の予定や担当業務を見える化し共有することで、無駄なやり取りや重複業務を削減できます。部署間の連携もしやすくなり、生産性を高められるでしょう。
コミュニケーションツール
ビジネス上のコミュニケーションツールは、近年、選択肢が増えています。
- 1対複数のコミュニケーションも取りやすいビジネスチャット
- リモートワークに欠かせないオンライン会議システム
- 個別に確認しなくても相手の動向が確認できるスケジュール共有ツール
業務の効率化だけでなく、多様な働き方を取り入れるためにも、必要なツールの導入や使い方のマニュアル作成が重要です。
また、これらのツールは社外とのコミュニケーションにも活用できるでしょう。
オンラインストレージツール
社内DXを進めるならばデータの保管場所も見直したい項目です。各担当者が個人端末に保存している状態ではデータの共有が難しいでしょう。
引き継ぐ際にデータの在り処がわからないといったトラブルも考えられます。オンラインストレージツールを活用すれば、複数の端末からアクセスが可能となりデータ共有も容易になります。
アクセスログの確認やアクセス制限によるセキュリティ対策も可能です。バックアップやデータの同期によるBCP対策としても導入メリットのあるツールです。
【事例】コールセンターの社内DX
コールセンターの社内DXの事例には、以下の3種類があります。
- 顧客応対のデジタル化
- 業務プロセスのデジタル化
- データ管理のデジタル化
顧客応対のデジタルでは、従来の電話応対に加え、チャットやメールなどの多様なコミュニケーション手段を取り入れることで、顧客の利便性を高められます。また、業務プロセスのデジタル化においては、問い合わせ内容に応じて自動で回答を返すAIを導入することで、オペレーターの負担を軽減できるでしょう。
さらに、顧客の問い合わせ履歴や対応履歴などのデータをデジタル化することで、過去の問い合わせ内容や対応内容を素早く検索できます。加えて、分析により顧客のニーズを把握し、サービスの改善につなげることができます。
コールセンターの社内DXで役立つツール
コールセンターの社内DXにおいて、役立つツールとして注目されているのは以下の3つです。
- チャットボット
- ボイスボット
- IVR
チャットボット
チャットボットは、テキストチャットでの問い合わせに自動応答するツールです。AI技術を活用して、よりスムーズな対応が可能となり、オペレーターの負荷を軽減できます。
また、チャットボットは24時間体制で稼働するため、顧客サポートの充実にもつながります。
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ボイスボット
ボイスボットは、音声認識技術を活用した自動応答ツールです。顧客の声を認識し、適切な回答を返せます。
また、ボイスボットは、音声認識の精度が高くなっているため、より自然な会話が可能となっています。これにより、オペレーターの負荷を軽減し、コールセンターの生産性向上につながります。
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IVR
IVRは、自動音声応答システムのことです。顧客が電話をかけてきた際に、自動音声案内が流れ、選択肢に応じた回答を返すことができます。
これにより、オペレーターが対応する前に、顧客の問題を解決することができ、コールセンターの生産性向上につながります。
まとめ
社内DXとは、社内においてデジタル技術を活用し、業務プロセスの最適化や生産性向上、さらには新たなビジネスモデルの創出を目指す取り組みです。
小さな社内プロセスのデジタル化により、従業員は業務の効率化や作業負荷の軽減を実感し、デジタル技術に慣れ親しめます。小さく社内DXを進めることがDXの推進に必要なため、以下のデジタル・IT化からはじめましょう。
- 業務環境
- 業務プロセス
- 顧客接点
生産性を高め、情報共有や業務の統廃合をサポートするためにはツールの導入もおすすめです。カスタマーサポートの面では、ボイスボットによる問い合わせの一次対応自動化も有効な手段です。
問い合わせ内容を集約し、情報共有や分析にも活用できるので、社内DXの一環として取り入れてみてはいかがでしょうか。
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